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いま話題の「カスタマージャーニー」について、詳しく解説します 後編 「ペルソナ」と「続・街の写真館の事例を考えてみよう-課題設定-」

前回、昨今注目が高まっている「カスタマージャーニー」について解説いたしました。今回はその続編として、「ペルソナ」の説明をからめながら、街の写真館の事例シミュレーションをしていきます。

 

「秋野つゆ」さんを知っていますか?

Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)が設定している「秋野つゆ」という象徴的人物像をご存じでしょうか。

「37歳女性」「都内在住で駅チカまたは高級住宅街が行動範囲」「独身または共働き」「都心で働くキャリアウーマン」といったデモグラフィック属性と、「個性的でこだわりがある」「シンプルでセンスの良いものを追求する」「装飾的なものより機能的なものを好む」「フォアグラよりレバ焼きが好き」「プールでは平泳ぎではなくクロールで豪快に泳ぐ」などのサイコグラフィック属性が付与されています。

webで「秋野つゆ ペルソナ」をキーワードに検索をかけると、このスープストックのケースをペルソナマーケティングの成功事例として紹介する記事が非常に多くヒットします。そこでは、スープストックは数多ある飲食店チェーンの中で自らをポジショニングする際に、この「秋野つゆ」というパーソナリティを想定し、彼女が好みそうな店舗やメニューを考え、彼女の生活動線に出店し、サービスの内容や価格帯などを決めていったと説明されています。

こうした「象徴的な顧客のモデル像」のことを、マーケティングでは「ペルソナ」と呼んでいます。personaはラテン語で「仮面・役柄」を意味しますが、もともとpersonと語源を同じくする言葉です。

インタビューやアンケートなどのリサーチデータと、自分たちの商品・サービスについての熟考をクロスさせて、ターゲットとして意識するべき顧客の像を、よりイメージしやすい実在のキャラクターに仕上げたものが「ペルソナ」です。

ただし、このペルソナもカスタマージャーニー(CJ)と同様、キャラクターの作り込みそれ自体が目的化してしまい、「なるほど顧客のイメージは分かったけど、それで具体的にどう使うのか」となるといま一つわからない、というケースも起こりえます。マーケティングの流行だから、という理由でなんとなく導入すると、かえって潜在する顧客層を見失ってしまうことにもなりかねません。

【参考】
スープストックトーキョーのブランド戦略 〜 やりたいことをやるというビジネスモデル 〜 (president-ac.jp)

 

意外な事実。秋野つゆはペルソナではなかった!

具体的なキャラクター設定や名前がついているので、世のマーケターは「ペルソナの成功例」と考えるようですが、実は、スープストックは秋野つゆについて自社の「ペルソナ」だと発表したことはありません。ちょっと衝撃の事実です(笑)。スープストックトーキョーの創業者で、株式会社スマイルズ代表取締役の遠山正道氏のインタビューによると、「秋野つゆ」は遠山氏がスープストックのコンセプトを明確化していく過程で、「これは方向性に合致するかどうか」を判定するために考え出した擬人化キャラだったことが分かります。ペルソナというより、むしろ「ブランドパーソナリティ」に近い概念です。氏のコンセプトは「どんなお客さまも差別することなく、Soup For All(すべての人にスープを)」なのですから。

【参考】
第89回 株式会社スマイルズ 遠山正道 | 起業・会社設立ならドリームゲート (dreamgate.gr.jp)

結局「ペルソナ」とは、お客さまがどんな人々なのかよく分からない時に、商品・サービスを提供する側が顧客像を明確にとらえ、共有化するための手段なのです。それよりもまず遠山氏が起業の際に行ったように、商品やサービスを世に問うにあたり、どのような価値を、どのようなイメージで打ち出すのか、自社の店やブランドのポジショニングをはっきりイメージする方が重要です。

前回テーマとしたカスタマージャーニーやペルソナといった、マーケティング上のトレンドテーマ、キーワードはこれからも出てくると思いますが、「自分のビジネスを徹底的に掘り下げて考えてみる」ことが、どんな場面でも基本であることは変わらない、というわけです。

 

シミュレーションスタディ:街の写真館の事例を考えてみよう 課題設定編

さて、「街の写真館」です。前回の記事ではカスタマージャーニー(CJ)を作るにあたって、お客さまの行動を列挙し、その態度・行動をめぐる日ごろの考えや感想、実際のエピソードなど、いろいろ考えてみましょうということでシミュレートしてみました。

実際のCJづくりにおいても、とりあえず細かいことは置いても構わないので、まずは何でもよいのでどんどん挙げていきます。そしてディスカッションやブレーンストーミングを行い、自社の商品・サービスに対するニーズや利用したいシチュエーション、期待する機能を、整理していきます。

 

商品・サービスのイメージを拡げていく

たとえば以前は写真は光学カメラで撮影し、DPEに出してプリントし、アルバムに整理して眺めたり共有したりしました。写真館で撮ってもらった写真も、特別なアルバムにして手元に置かれたものです。

しかし現在では、それらはスマートフォンの中、SNSのタイムラインの中、デジタルストレージの中にストックされ、物理的なプリントやアルバムの出番はあまりありません。イベント帰りには着飾った男女がプリクラに集まって、何人かでシールを作って交換したり持ち帰ったりしています。結婚式や式典でも、慣れた参加者になるとデジカメで撮った写真をその場で加工・編集し、散会の際に列席者の手に渡せるように立ち回る強者までいるようです。

こうした状況を列挙し、では何が写真館に期待されるのか、どんな商品・サービスなら多くの人に利用してもらえるのか、について「リミッター(制限)なし」で考えていきます。

例としては以下のような項目が想定されます。

・利用したいタイミングやシーン、シチュエーション

ライフイベント……誕生、お宮参り、誕生日、七五三、節句、新入学、卒業、就職、結婚、マタニティ、米寿祝い、傘寿祝いなど

メモリアルイベント……運動会、発表会など学校行事、親睦イベント、趣味のサークル、同窓会、スポーツの大会、お祭り、企業の周年イベント、開店・閉店記念、植樹祭など

パーソナルスペシャリティ……女優や映画スターのようなポートレート、コスプレで変身した姿、自費出版の肖像、選挙用ポスターやパンフレットの写真、コレクションアイテムの記録、商品やサービスの写真、ペットの肖像写真など

・写真館に対するニーズ

「想い出を形にして残したい」というふわっとしたニーズ

物理的な媒体(プリント、フォトブック、ポスター・キーチェーンなどのグッズ)として手元に置きたいというニーズ

データで保存したい、webサイトやSNSなどに掲載したい(=二次利用したい)というニーズ

・写真館に期待する機能

写真撮影の技術……きれいに撮る、美しく撮る、瞬間をとらえる、鮮明に撮る、空間を切り取る、など

撮影に適した環境……広い、障害物がない、採光が良い、着替えができる、演出ができる、機材が揃っている、背景(ホリゾント)が選べる、など

納品された成果物の価値・品質……額装、プリント、加工修正、複製、保存媒体への収録、出力サイズの幅、フォトブックやポスターなどの制作物、グッズへの展開、離れた場所にいる親族への転送サービス(デジタルギフト)、出張(出前)撮影、動画撮影と編集サービスへの拡大、デジタル加工や合成の可能性、など

このほかにも、まだいろいろ考えられると思います。既存サービスの範囲内のものと、それを越えた新たなサービス。自由に発想して幅を拡げ、そこから自社・自店舗にマッチしたビジネスの範囲を絞り、イメージ化いくことが大切です。自分たちが提供するのは何なのか。そう、スープストックの「秋野つゆ」のように、ですね。

 

行動と媒体のマッチング、課題の明確化

次にやることは、お客さまの行動と媒体のマッチングです。お客さまの側に「今度の初孫の初宮参りで、記念の写真を撮りたい」というニーズがあったとしても、頭の中で「写真館で撮影してもらう」という選択肢がイメージされていなければ、来館してもらうことはできません。そこで、ニーズを持つお客さまに届く情報を運ぶ媒体を計画することになります。

ここでは、「既存のお客さまにもっと利用してもらう」場合の戦略と、「新規のお客さまを呼び込む」場合の戦略を分けて考える必要があります。

既存のお客様にライフイベントで利用していただくためには、どのような接点と媒体が考えられるでしょうか。最初に思いつくのは、既に多くの企業がやっているように、顧客データベースの活用です。入学式の写真を撮ったお客さまは、数年後には卒業、上級校への入学、卒業、とイベントが定期的に続きます。兄弟姉妹がいたなら、そのライフイベントへのアプローチも可能です。DM(ダイレクトメール)、LINE登録、SNSでのDM(ダイレクトメッセージ)など媒体は多様化しています。個人情報の扱いに配慮する必要がありますが、不特定多数への呼びかけに比べタイミングをフォーカスしたアプローチは効果があります。

ライフイベントを入り口として顧客になっていただいたお客さまには、メモリアルイベントやパーソナルスペシャリティでのご利用を促します。「そんな使い方もあるのか」「このニーズにも対応してくれるんだ」との気づきに訴求できるよう、近隣へのポスティングや折り込みチラシなどでクーポン券を配布するのも良いかもしれません。店頭でのクーポン配布、街の掲示板などの利用も考えられます。

そして、自社でのサービスにご満足いただいた方にアンケートを実施し、再利用の意向や要望、利用したいサービス内容などを伺います。自由コメントに感想を記入していただいた方にはクーポンを発行、許可を得た上で「お客さまのお声」としてwebやTwitter、フェイスブックへ仮名で転載します。

一方、新規のお客さまに存在を認知してもらうには、広範囲・多数の目に触れるようなテレビCMや全国紙へ打つ広告は費用対効果が低すぎます。商圏である狭い範囲で、「ニーズやシチュエーションに対応できる機能を持つ写真館」としての存在を知らしめることが、まずは必要です。そこから発想すると、折り込みチラシやポスティング、店頭でのプロモーションといった地道な「地上戦」と、エリアを限定したネット広告、SNS発信、「お役立ち情報」をコンテンツ化したコンテンツマーケティングなどの「空中戦」がマッチします。

webサイトにはQ&Aコーナーや「よくあるご質問」のページを設置し、たとえば「いくらかかるのか」「撮影はスタジオじゃないとダメ?」「衣装とか道具は借りられるの?」「生前に遺影は撮ってもらえる?」「時間はどのくらいかかる?」「当日の予定変更はできますか」などお客さまが気になっていそうな情報をあらかじめ掲載しておきます。それぞれのトピックをTwitterなどで小出しにして、webや電話番号に誘導する動線も作っておくとよいでしょう。

最近は美容室や歯科医院なども、ネットで予約状況が分かるようになっています。写真館も空いている時間が確認でき、スマートフォンやPCで予約もできると、使い勝手が向上します。WordPressなどのCMS(webサイト制作運営ツール)や、クラウド型の予約管理システムを使えば、自社のwebサイトにも設置が可能です。制作会社に依頼して作成している事業者なら、委託先に相談してみてはいかがでしょうか。

地域商店会や商工会がwebサイトを運営しているようであれば、リンクを貼りましょう。エリア内の企業や教育機関の動向を見て、営業メールを送るのもアリです。「エキテン」のようなコミュニティに登録したり、「ジモティー」のような地域サイトを活用して情報収集するのも有効です。

また、写真はビジュアルで訴求する性格のものですから、YouTubeなど動画サイトでのアピールもできれば行いたいものです。動画写真集、動画撮影・編集、撮った写真のグッズ展開といった多様な商品を持てる写真館であれば、そのYouTube動画自体がショーケースとして営業ツールになります。

最近はデジタル化の推進により、個人でもビジネスに参入する障壁が低くなりました。同時に、小規模事業者もマスコミに頼らず、ユーザー層に対し独自のコミュニケーションを展開しやすくなっています。しかし、ECサイトやSNS、販売プラットフォーム、カタログなどに商品写真を載せようとすると、それなりに撮影技術や撮影環境を整えなくては様になりません。アマチュアはここがネックになります。商品写真の撮影やスタジオレンタル機能を写真館が提供することで、ビジネスチャンスが拡がる可能性もあります。

こうして考えていくと、アイデアの幅が拡がってチャレンジできそうなことが色々出てきますね。これを相対的な視点で考えていくのが、CJの大きな特徴なのです。ではここで、もう一度CJの大まかな流れを復習してみましょう。

・その商品・サービスの存在を知る

・興味・関心を覚える

・情報を収集する

・実際に手に取る、テスト体験する

・誰かと相談する、意見を聞く

・購入(利用)する

・使用し、期待値と比較する

・周囲に広めたり、勧めたりする(逆もありうる)

CJの旅は、お客さまが商品やサービスの存在を知るところからスタートします。であれば、自分の会社や店がどんな商品・サービスを行っているのか、行えるのかをまず整理し、一覧化することが大切です。そのうえで、既存のお客さま、新規のお客さまにどんなアプローチが必要なのか、そのためにはどんな情報経路で、どんな内容・表現で伝えていけば興味・関心を持っていただけるのかを考えます。

これが行動と媒体のマッチング、課題の明確化のプロセスです。

いかがですか?思ったより手間がかかる、それとも意外と簡単、と思われましたか?CJづくりは、ビジネス構想の中でもクリエイティブな発想が必要な作業ですから、楽しみながら「こうか?いや、違うか」と頭をひねるのが上手くいくコツです。

もし面白いと思われたら、私たちリップルネットにどうぞご相談ください。ユーザーの皆さまのお役にたてるよう、力の限り支援と協力をさせていただきます。

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